お薬について

今回は、主に心療内科・精神科で使われる向精神薬(抗うつ剤、抗不安薬、抗精神病薬、気分安定薬など)について書きたいと思います。

まず最初に、「これを飲むだけでうつや不安などが治ります」という薬は今のところありません。では薬は飲む必要がないのか、飲む意味がないのかというと、もちろんそんなことはありません。適切に使えば、症状やつらさを緩和し、日常を楽にしてくれたり、回復の助けになったりしてくれることもあるからです。薬の助けを借りることで、心身が持つ「バランスを取り戻す力」を発揮しやすくなることもありますし、薬を使うならそうなることを目指して使うことが大切だと思います。

院長挨拶にも書きましたが、僕自身は20歳前後で心身のバランスを崩しました。対人恐怖症、今で言う社交不安症の状態でした。受診も考えましたが、心療内科に受診するのは何となく嫌でしたし、薬を飲むのも怖かったので受診せずに、大学の学生相談などを利用しながら自分なりに工夫したりして何とかやっていました。そして通院を始めてからは、対人緊張や不安に対して抗不安薬(不安や緊張をやわらげる種類の薬)を数年間飲んでいました。

薬を飲むと不安が減ったり、人と接する時の緊張がやわらいだりして、毎日の生活がだいぶ楽になり、気持ちも楽になったり、前向きになったりしたことを覚えています。また、つらさや苦しさに取られていたエネルギーを他のことに使うことができるようになり、自信も少しずつ取り戻していきました。(「薬に頼らないとだめな自分」と、自分を責めたりもしましたが。。)そうやって活動できる範囲が広がる中で様々な出会いもあり、自分自身と少しずつ向き合っていけるようになりました。あんまり苦しいと向き合うなんてできませんから。

診療の中でも、薬と上手にお付き合いされながらご自身と向き合い、不安やうつを越えていかれる方はたくさんいらっしゃいます。時に「薬は悪だ」というような話を見聞きすることもありますが、全否定するのはちょっと言い過ぎだと僕は思っています。どんな薬でも副作用はあり得ますが、物事には必ず良い面、悪い面があるものです。そういったデメリットよりメリットが上回ることが予想される時には、適切な種類を、適切な量を使うこと。またそうやって適切に使っていくためにも、薬に何を期待しているのか、薬についての考え、実際に飲んでの感覚、などについてコミュニケーションを取り合いながら調整していくこと。その時その時に適切かどうか、助けになるかどうか、を考えていくことが大切だと思っています。